結婚を機に、俺は今まで住んでいた独身用のマンションを売った。
まさか自分が身を固めるなんて思ってもなかったから、資産形成もかねていくつか部屋を持っていたのだが、さすがにそこは二人で住むにはやや手狭だ。
俺と香苗が暮らす家は、会社からほど近いタワーマンション――引っ越しが終わった俺たちは、そんな家での休息もそこそこに旅行に行くことになった。
「箱根なんかは、毎年家族で出かけることもあったんです。でも、長野はなかなか……」
「ウチは長野に行くことが多いんだよ。義母さんの実家がそっちで、兄さん達といっしょに出かけるんだ」
手ずから荷造りをしながら、香苗が首を傾げた。
大きなキャリーバッグに自分の下着――結構透けてて、きわどいヤツだ――を詰め込む
新妻の仕種に、思わず鼻の下が伸びる。
「仲がいいんですね、アキラさんとお義兄さんたちって」
「まーね。……あのさ、香苗は暮竹リゾートホテルって知ってる?」
「くれたけ……あぁ、はい! 父の取引先の一つで、暮竹グループの会長さんにはよくしていただきました」
長野の山間にある、暮竹リゾートホテル。
高級志向のホテルとして有名なこのホテルは、義母さんの実家がグループ経営をしているのだ。
「兄さん達がさ、せっかくだから向こうでゆっくりしてこいって……ほら、親父がこっちに帰ってきたら多分顔出さないといないし……」
「お義父さん……その、お話では聞いたことがあるんですけれど……」
兄貴達も、親父についての詳しい事情はあまり彼女に説明はしていない。
俺もどちらかと言えばそういうことには詳しくないし、ウチの母親が生きていればまた違ったのかもしれないが、父親に良い印象を抱いているわけではなかった。
「あのさ、俺と兄さん達の母親が違う話は、前にしたよな? 汐田の義母さんは、ウチの親が死んだ後に俺を引き取ってくれたって」
「はい。あの……最初は、全然そんな風に見えなくて。だって、お義母さんともお義兄さんとも、とても仲が良さそうだったし……」
「うん、俺も義母さんに育てられた年数の方が長いしね。兄さん達と変わりなく愛してもらった自覚はあるよ。でもさ、ウチの親父っつーのがかなりクセモノっつーか」
数十の傘下企業をまとめる男の頭の中が、俺みたいな普通の人間に理解できるとは思わない。
だが、気に入った女は人の妻でもモノにして、孕ませた人の数なんて覚えてもいない――たまたま俺の運が良かっただけで、親父に認知されずに人知れず子供を育てているという女性だって、きっと少なくはないだろう。
現に俺は自分の母親がそれで苦しんでいるのを知っていたし、汐田の義母さんが悲しんでいるのも知っている。
身寄りのない俺を引き取ってくれた義母さんに感謝が募るたびに、親父への嫌悪も積み重なっていった。
「香苗も、親父には気を付けてくれよ。アイツ、人妻だろうがJKだろうが、欲情したら見境なしだ。香苗はかわいいから、あっという間に狙われるぞ」
「も、もう、アキラさんったら……そんなこと……」
下着を詰め替え終わった香苗は、むっとした様子で唇を尖らせた。
柔らかいニットの下に隠された柔らかい胸が、むぎゅっと腕で寄せられる。
「アキラさんは、守ってくれないんですか? そんな風になったら……お義父さんから、わたしを」
「もちろん守る。守るに決まってるだろ? だって香苗は、俺の奥さんだもん」
そう言ってソファから立ち上がった俺は、香苗の側にしゃがんでその体を抱きしめた。
柔らかいGカップの胸が、むにゅりと腕に当たる。
「香苗、やわらかいなぁ……良い匂いだし」
「や、やだ、アキラさん……な、なにか当たってます……!」
「当ててんの。だって、こんなにおっぱい大きくて、笑顔がかわいくて、エロい奥さんがいたら誰だって勃っちゃうでしょ」
「そんな……あっ、だ、だめ……明日、あ、朝早いんだから……」
いやいやと体をよじって俺から逃げようとする香苗を、更に強い力で抱きしめる。
「ちょっとだけだからさ……な?」
「も、ぉっ……ぁあ、ほ、本当にちょっとだけ、ですからね……?」
嫌だと言う割には体に力も入っていないし、俺がふっと耳に息を吹きかけただけでその抵抗もなくなってしまう。
ちょっとだけで済めばいいけど――俺は心の中でそう呟いて、妻の体をカーペットに押し倒した。
ふるん、と大きく揺れた両胸に、俺はおもわず舌舐めずりをする。
「おっ、ブラつけてないんだ? やっぱり香苗も期待してたんだな――」
どうやら、「ちょっと」では済まなさそうだ。
白い首筋に吸いつきながら、俺は体の中を流れる熱に体を任せた。